「せっかく時間とコストをかけて撮影した動画を、そのままSNSに流したら小さく表示されて誰も見てくれなかった」。広報やマーケティングの担当者の方から、こうした相談を受けることが増えました。テレビCMや会社紹介のために横型(16:9)で作った動画を、そのままInstagramやTikTokに投稿してしまい、画面の上下に黒い帯がついたまま再生される。スマホを立てて見ているユーザーからすれば、画面の真ん中に小さな映像が浮いているだけで、内容を届ける以前に指を止めてもらえません。今回は、1本の素材を縦型や複数の尺に展開するときに、映像ディレクターとして必ず押さえている設計の考え方をお伝えします。
「切り取る」という作業の現実
まず理解していただきたいのは、横型を縦型にするのは「変換」ではなく「切り取り」だということです。16:9の映像を9:16にすると、横方向の情報のかなりの部分が画面外に出てしまいます。たとえば2人の人物が横に並んで映っているカットでは、縦に切り抜くと片方が画面から消えてしまうことが珍しくありません。これを何も考えずに自動変換ツールにかけると、話している人の顔が半分切れていたり、テロップが読めない位置に流れてしまったりする失敗がよく起こります。縦型展開は撮影後の作業ではなく、撮影前から設計しておくべき工程だとお考えください。
撮影時点でできる対策
縦に切り出す前提がある場合は、撮影の段階で対策ができます。被写体はできるだけ画面中央に寄せて撮影し、左右の端ぎりぎりに重要な情報を置かないようにします。これは放送業界でいう「セーフフレーム」の考え方に近いもので、後から別の比率で切り出されても破綻しないように余白を意識して撮る、という発想です。また可能であれば4K解像度で収録しておくと安心です。フルHDで書き出すときにデジタルズームのような形で切り出す余裕が生まれるため、縦型用に画角を調整しやすくなります。企画段階でこの前提を制作会社と共有できているかどうかで、仕上がりの品質が大きく変わります。
AIによる自動リフレーミングの現在地
近年は編集ソフトにも自動で人物を追従しながら縦型に切り出す機能が搭載されています。代表的なのはPremiere Proの自動リフレーム機能で、話者の顔を検出して画面内に収め続けてくれる便利な機能です。ただし現状では万能ではなく、人物が複数いるカットで誰を主役として追うか判断を誤ったり、素早い動きに追従が間に合わなかったりする場面もあります。実際に、複数人が同時に映るインタビューカットを自動リフレームだけで処理した結果、話していない人物ばかりを追ってしまい、肝心の発言者の顔が画面の外に出てしまったという失敗もよく耳にします。自動処理に任せきりにせず、書き出したあとに人の目で全カットを確認する工程は必ず残しておくべきです。
テロップは作り直す前提で
見落とされがちですが、テロップは横型のものをそのまま縮小して使うことはできません。横長の画面を前提に配置されたテロップは、縦型にすると画面の外に出てしまったり、被写体の顔に重なってしまったりします。縦型用にはフォントサイズや行の折り返し、表示位置をすべて設計し直す必要があり、これは映像を切り出す作業とは別の工数として見込んでおく必要があります。
尺違い展開は「削る」のではなく「組み直す」
本編を60秒、30秒、15秒へと単純に短くしていく発想では、途中で終わったような印象の映像になりがちです。尺ごとに構成そのものを変えるという考え方をおすすめします。15秒はまず結論やいちばん伝えたい一言から始め、30秒は結論とその理由を、60秒は背景まで含めて伝える、というように尺ごとに役割を分けて組み立てます。
媒体ごとの目安としては、YouTubeの本編やコーポレートサイトへの掲載は横型16:9のまま、InstagramやFacebookのフィード投稿は正方形や4:5、Instagramのリールやショート動画サービスは縦型9:16で短尺、という組み合わせが基本になります。どの媒体を主戦場にするかによって、優先して作り込むべきバージョンも変わってきます。こうした複数バージョンは、後から追加発注すると撮影データの再確認や再編集が発生し割高になりがちです。制作会社に発注する段階で、縦型版と尺違い版を最初から見積もりに含めておくことを強くおすすめします。
複数媒体への展開を前提とした動画制作や、既存素材の縦型・尺違いへのリメイクについてご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。撮影前の設計段階からご一緒することで、無駄のない形で1本の素材を活かしていけます。
