長く勤めた社員が退職してから、「もっと聞いておけばよかった」と気づいた経験を持つ総務・人事のご担当者は少なくありません。送別会で花束を渡し、最終出社日に温かい拍手を送る。それ自体は大切な儀式ですが、その人が何十年もかけて積み上げてきた判断力や経験は、拍手と一緒には残りません。気づいた時にはもう連絡先しか手元にない、というのはよくある話です。
マニュアルには残らないものがある
業務手順書や引き継ぎ資料には、作業の手順やルールは書けます。しかし「なぜその判断をしたのか」という理由までは、たいてい書かれていません。トラブルの時にあえて慎重な選択をした背景、取引先とのやり取りで一度こじれた過去があってその後の距離感ができた経緯、そもそもその仕事を選んだ動機。こうしたものは、本人が語らなければ形に残らず、退職と同時に消えてしまいます。マニュアルは「何をするか」は教えてくれても、「なぜそうするか」までは教えてくれないのです。
手順の記録とは別に「語り」を残す意味
技術継承というと、作業を撮影して手順を記録する映像を思い浮かべる方が多いと思います。それはそれで価値がありますが、インタビューはまったく別の役割を持ちます。本人の言葉、間の取り方、迷った時の表情。数字や手順には変換できない情報が、語りの中には詰まっています。後輩がその映像を見た時に感じるのは「やり方が分かった」ではなく「この人がどう仕事と向き合ってきたか分かった」という納得感です。この納得感こそが、技術以上に組織に残したい財産だと感じています。
聞いておきたい5つの質問
インタビューの成否は、質問の質で大きく変わります。おすすめしたいのは次の5つです。一番大変だった仕事は何で、どう乗り越えたか。若いころの自分に今なら何を言いたいか。この会社が変わったと感じる点と、変わらないと感じる点。後輩に引き継ぎたい判断の基準。そして、今も忘れられない失敗。特に失敗の話は本音が出やすく、聞き手側が身構えず自然体で聞けるかどうかが鍵になります。
撮り方と編集の考え方
撮影時間は1時間ほどを目安にすると、無理なく本音まで届きます。場所は本人が長く働いてきた現場か、慣れた会議室が落ち着いて話しやすいでしょう。聞き手は初対面の人よりも、本人をよく知る同僚や後輩が向いています。信頼関係があるほど、言葉に力が入るからです。編集は、社内公開用に数分へ短くまとめたものと、記録として残す長尺版を分けて考えることをおすすめします。そして忘れがちですが、編集前の全編素材を無編集のまま保存しておくことにも大きな価値があります。後年、別の目的で見返した時に、短縮版では削られていた一言が意味を持つことがあるからです。
使い道と、確認しておきたいこと
こうした映像は新人研修の教材、周年記念の映像、採用サイトのコンテンツ、社内報の素材など、社内のさまざまな場面で活用できます。だからこそ撮影前の確認が欠かせません。公開範囲についての本人の同意、退職後も使い続けてよいかどうか、個人名や取引先名をどこまで出せるか。これらを曖昧にしたまま撮影を進めると、後で使いたい時に使えないという事態を招きます。完成した映像は必ず本人にも渡し、内容を確認してもらう一手間が信頼につながります。
撮るタイミングも重要です。退職が決まってから慌てて依頼するのでは遅く、実際に「最終出社日の前日に急いで撮影したものの、緊張と焦りで本音が出なかった」という失敗例も耳にします。また、同意の範囲を詰めずに撮った映像が結局公開できずお蔵入りになるケースも少なくありません。理想は、周年行事や節目のタイミングに合わせて、日頃から計画的にインタビューの機会を設けておくことです。
ベテラン社員の言葉は、その人が会社を去った瞬間に二度と撮れなくなります。記録を残すなら、今が一番早いタイミングです。撮影の進め方や質問設計、編集方針について相談したい方は、お気軽にお問い合わせください。
