配信中に流したBGMのせいで、映像だけ真っ黒になって音が消えた。あるいは、盛り上がっている場面でいきなり「著作権侵害の申し立て」という表示が画面の隅に出た。そんな経験をした担当者は少なくないはずです。事前に「著作権フリー」と書かれた音源を選んだつもりでも、配信が始まった瞬間にミュートされたり、後から警告メールが届いたり。何が原因だったのか分からないまま、次の配信でも同じ不安を抱えたまま本番を迎えている企業も多いのではないでしょうか。
映像制作の現場で20年近くBGMや素材の権利まわりを扱ってきた立場から、ライブ配信特有の落とし穴を整理します。編集済み動画に対する著作権の考え方とは仕組みが異なる部分が多いので、混同しないよう気をつけてください。あくまで一般的な整理であり、法的な助言そのものではない点も先にお伝えしておきます。
音楽の権利は二重構造になっている
音楽には「作詞・作曲」に関する著作権と、CDや配信サービスで聴ける「その音源そのもの」を管理する原盤権という、性質の違う二つの権利が重なっています。JASRACなどの著作権管理団体と包括契約を結んでいる配信プラットフォームは多いですが、これは作詞・作曲側の権利をカバーしているだけで、原盤権までは含まれていません。つまり市販の音楽やアーティストの配信音源をそのまま流す行為は、プラットフォームが著作権管理団体と契約していても、基本的にはNGという整理になります。この二重構造を知らないまま「配信サービス側が契約しているから流していい曲のはず」と思い込んでしまうケースが目立ちます。
Content IDが配信中に何をしているか
YouTubeにはContent IDという仕組みがあり、配信中の音声をリアルタイムで照合しています。市販曲や権利者が申請した音源が流れると、配信中の音声だけがミュートされたり、収益化が制限されたり、権利者の判断によっては配信自体に制限がかかることもあります。厄介なのは、ライブが終わったあとに残るアーカイブにも判定が引き継がれる点です。ミュート済みのまま公開され続けたり、地域によっては視聴自体がブロックされたりすることもあります。配信中は気づかず終わったのに、翌日アーカイブを見返して初めて異変に気づく、という相談も少なくありません。しかもContent IDは自動照合なので、担当者が「これくらいなら大丈夫だろう」と思っていた短い一節でも、機械的に検出されてしまう点も見落とされがちです。
安全にBGMを使うための現実的な選択肢
事故を避ける一番確実な方法は、商用利用と配信利用の両方が明記された音源サービスを使うことです。定額制のロイヤリティフリー音源、配信利用を想定したフリーBGM素材、あるいは制作会社にオリジナル曲を依頼する方法もあります。特に見落とされがちなのが、本編中は注意していても、開始前の待機画面や休憩中のBGMで市販曲をつい流してしまうケースです。緊張感が緩む場面ほど事故が起きやすいので、待機・休憩用の音源こそ本編と同じ基準で事前に用意しておく必要があります。台本やタイムテーブルに音源の出典を書き込んでおくだけでも、担当者が変わった際の事故防止につながります。
画面共有・店舗BGM・イベント収録の落とし穴
配信中の画面共有にも注意が必要です。他社のサイトや記事、画像、動画を許可なく画面に映す行為は、無断利用にあたる可能性があります。社内資料に貼り付けられた画像や動画も、そのスライドを作った担当者が権利をきちんと確認しているとは限りません。また店舗から配信する場合、有線放送や店内で流している市販曲がマイクを通して配信に紛れ込んでしまうこともよくある事故です。イベント会場での生演奏やカラオケを配信に乗せる場合は、来場者向けの上演とは別に、配信用の手続きが必要になることもあります。演奏する曲目や演者の権利関係は現地で急に把握できるものではないので、イベント担当と配信担当が事前にすり合わせておくと安心です。
判断に迷ったら専門家に確認を
ここまでの整理はあくまで一般的な考え方であり、法的助言ではありません。個別のケースで判断に迷った場合は、社内の法務担当や権利者、利用する音源サービス・プラットフォームの公式情報を必ず確認してください。実際に、配信アーカイブが世界中でブロックされた例や、待機BGMだけで警告を受けた例は珍しくありません。配信を安心して続けるためにも、本番前のチェック体制を整えておくことをおすすめします。
BGMや素材の扱いに不安がある場合は、お気軽にお問い合わせください。
